vendredi, juillet 27, 2007

スゴい文章 [Miyuki Tsuruzono]

 いい文章、とはどんな文章だろうか。
 美しい文章。意図の伝わる文章。生気に満ちた文章。格調高い文章。個性あふれる文章。
 そこにはさまざまな要素がある。

 古今の文豪たちについて語るつもりはないが、今までに一度だけ、「これは凄い」という文章に、直接触れたことがある。

 以前、ある方を秘書的な面で手伝っていたときのこと。
 いわゆるファンレターのようなものが、割と来る。中に、2、3カ月に1度、決まって届く手紙があった。内容は、そうですね、「先生はすばらしい。私は先生に出合えて光栄だ。お会いしたときのことは忘れない」と要約されようか。
 それを、普通の白い便箋に黒いボールペンで、延々と綴ってある。毎回、10枚20枚という勢いである。それだけでもかなりのものなのに、直しの跡はなく、清書したふうでもない。なぐり書きに近いのに、書き違いはほとんどない。つまり、思いが満ちると一気呵成に書き上げ、すぐに封をして送った、という印象である。
 内容から察するに、地方に暮らしていて、たまに心のバランスを崩すと病院に入って俗世と距離を置く。”先生”には一度だけお目にかかったことがあり、その際にちらりと声をかけられた。それだけのようである。

 最初にその方の手紙を目にしたときには衝撃を受けたが、何度も何度も新しい手紙を読むたびに、さらに衝撃は強まった。
 ただごとでないのである。
 必ず同じ内容を書いてくる。それなのに、文言の勢いはまったく衰えないし、表現も毎回異なって繰り返しがない。それどころか、ありとあらゆる言葉が熱狂的に溢れ出して上記の内容を述べつづけ、手紙の空気は膨れ、広がり、爆発する。台風のように暴れ、猛火のように焼き、豪雨のように吹き荒れながら、まだ温度が下がりもしないときに、夢から覚める瞬間のように収束する。

 その暴れっぷりときたら、いわゆるフリージャズとでもいうのか、主題が始まり、各パートのソロが連なり、メインのアーティストがすばらしい展開を見せるうちに広がりすぎて収拾がつかなくなるように見えつつも、最後は全員でびしっと決めて曲が終わる、というイメージ。途中でぷつりと切れたりすることは決してなく、必ず始まりと中と終わりがある。

 彼女(手紙の主)は、何のプロでもないらしい。
 その文章を好きか嫌いかなどというのは、根本的に違っている。
 要するに彼女は天才なのだ。
 仕事もしていないようだから、(たぶん)その手紙しか書かず、自分が天才だとも知らずに暮らしているのではないだろうか。

 その「作品」を、一部なりともコピーしておけばよかったと10年以上経った今も思うが、その筆跡、その凄さは脳裏に鮮烈なままだ。

 何より紙と字が好きで、文章を書く仕事をしていても、わかりにくい箇所を平易に直したりしながら「これは、執筆ではなくて整頓作業だよなぁ」と思うたびに、その手紙を思い出す。

水流薗みゆき

4 Comments:

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