mardi, décembre 13, 2005

聞き書きについて[Hitoshi Oba]

 養老孟司『こまった人』(中公新書)を読む。と、読み出した途端にドキッとすることが書いてある(巻頭「本と商売」という章)。
 超ベストセラー『バカの壁』(新潮新書)が聞き書きによって作られたことは、ご存じの方も多いと思います。これは余談ですが、2003年4月の刊行以来の同書の累積部数は400万部! 新潮社はこの大儲けで箱根に山荘を建てられたとのこと。その通称が「バカハウス」だそうで……(この情報は内田樹先生のブログより)。バカでもアホでも基地外(呉智英先生の用語)でもかまわないから、あやかりたいものですね。
 で、ここからが本題。養老先生はこの本が聞き書きをした人の有能さに負うところが多いと述べられる。ここまではいい。恐ろしいのはそれに続いて「この『起こし』(話を文章に起こした原稿)が上手だと、私はたいへん楽である。下手だと、はなはだ腹が立つ。実情はといえば、下手が八割、上手が二割である。もっとも下手な人は自分が下手だとわかっていない」!!
 私も在職中は、硬い分野では自然科学やハイテクの先生、やわらかいところではコミックPR誌でマンガ家の先生方などの聞き書き原稿を作るという仕事を結構やったもので、実はまあまあ面白い原稿ができる打率は七割程度、などとうぬぼれていたのである。もっとも400字詰でせいぜい十数枚という程度の分量が大半だったから、あまり失敗のしようもなかったということもあるのかもしれないけれど。それでも先の文章を読むと、とたんに自信がなくなった。
 送った原稿にそれほど沢山赤が入って戻ってきた記憶はあまりないのだけれど、とくにマンガ家の方は多忙な方が多く、もしかすると「どうしようもない原稿だけど、仕方ないか」と放置されたという可能性も考えなければならないのではないか……。

 ここまで書いて、一番怖い思いをしたことを思い出しました。今を去ること十年近く前のちょうど今くらいの季節。早稲田にある国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)のK先生にお話をうかがいにいったときのこと。テーマは「エボラ出血熱やマールブルグ出血熱など、エマージング・ウイルスの爆発的な流行とその背景について」というようなもの。
 そのときはあらかじめ「こんな感じでお話を進めていただくのはいかがでしょう」という趣旨のメモを用意していったのだが、それを見るなりK先生、「これは自然科学じゃない!」とおっしゃるやいなや、メモ全体に×印を大書されたのだった……。ガーン、それは焦りましたよ。頭の中が一瞬真っ白。で、恥ずかしい話なのだが、その後の記憶がほとんどない。
 それでもK先生は見た目も怖いけど根は優しい先生で、なんとか記事はできた……はずだと思うのだけど。

 こんなことだと、やはり養老先生による「下手が八割」の部類なのかもしれない。なんだか先週に続いて営業に差し支えそうなことばかり書いてるんですけど。

 ところで、この予防衛生研究所の取材では、実はもう一つ、とっても怖いことがあったのでした。
 それについては、次週!
 血の凍るような話を待て!!

 大場仁史