mercredi, décembre 14, 2005

油揚げ[Izumi Shoji]

 まだみなさんに打ち明けてなかったことがある。
 私が原稿料を注ぎ込んでるのは、マルマンストアだけじゃない。実はもう一軒、ほぼ毎日通いつめてるお店があるのです。風間豆腐店だ。昔ながらの店がまえの小さなお豆腐屋さん。お豆腐はもちろん、揚げ物が達人ワザで。風間豆腐店のほどふっくら揚がった油揚げは、これまで見たことがない。
 そして、(ここがミソなのだが)お人柄のいいおじさんが、油揚げを一枚買うと二枚、二枚買うと三枚包んでくれる。がんもどきも同じ。三個買うと四個、四個買うと五個。義理堅い私はそれですっかり手なずけられ、お豆腐も揚げも豆乳も、そこ以外では買えない体になってしまった。マルマンストアでも扱ってる高級ブランド、三之助豆腐もたまには食べたいが。操は守り通しますッ!
 でもね、手なずけられてるだけに、遅い時間に油揚げが残ってると気になって。「今日はお豆腐だけ」と決めてても、つい「揚げも三枚ください」と言ってしまう。すると六枚くらい入れてくれるから、当然食べきれない。そんなわけで、うちの冷蔵庫の冷凍室は油揚げ専用スペースと化している。このことを家族は知らない。ホホッ、女にはいろいろ秘密があるのです。(もうちょっとかっこいい秘密も持ちたいものである)

 前置きが長くなったが、安房直子はご存じだろうか。たいそう美しい物語を書く童話作家だ。たくさんの作品を残しているから、なかにはアレレってものもあるが....。名作も数多く、『花豆の煮えるまで』は、1ページ立ち読みして即購入。挿絵つきの子ども向けの本を、いい大人が電車の中で読みふけってしまった。ドキドキするほどきれいなお話だから、機会があったらぜひお読みくだされ。
 その安房直子さんの作品に『ねこじゃらしの野原』というのがある。小さな子向けのチャーミングな物語で、お豆腐屋さんが主人公。その中に自転車でラッパ吹いて売り歩く場面があり「こういうのいいなあ」と思いながら読んだ。
 若輩者(!)のワタクシは、豆腐屋のラッパは聞いたことないが、旅先の金沢でリヤカーでお豆腐売ってるおじさんにうっとりしたことがある。なんてすてき! ラッパが聞こえたらお勝手から鍋を片手に飛び出して、「お豆腐一丁くださいな」って言ってみたいもんだ。
 でも、今の時代でも、いや今の時代だからこそか。リヤカーひいてラッパを吹き、お豆腐を売り歩くお商売があるそうな。新聞で見たのだが、記事によると大量に売り子(?)のバイトがいて、世田谷区あたりを売り歩いてるらしい。じきこの近所にも進出してくる!? とすると、鍋片手に飛び出すのも夢じゃないのかも.....。
 でも、もしいつか夕暮れ時にラッパの音が聞こえても。私はきっと買わないだろう。風間豆腐店のおじさんに悪いから。油揚げのご恩は決して忘れない。冷凍庫にいっぱいのお揚げだって、いつか必ず食べきりますとも!

庄司いずみ