dimanche, avril 23, 2006

ドラマ侮り難し [Miyuki Shoji]

 何気なくテレビをつけて、そのままエンディングロールまで座りこんで見てしまうことなんて滅多にない。
 またテレビネタですが……。わざわざ書く必要があるくらい、本当にテレビって観ていないのです、最近は。だって、話題のドラマはほとんどが自意識過剰のジャリタレ主役で「ハズカシ~」って感じだし、歌番組はたいがい全員歌がヘタだし、お笑いは玉石混交だし、旅ネタ料理ネタは「全部同じ脚本なのか」ってくらい定番仕立てだしで、「見ごたえあったねー」ってのはドキュメンタリーとかスポーツとか、そんなのしかなくて。しっかり毎週、「見忘れのないように」と意識したドラマは、ここ数年では唐沢版『白い巨塔』と、放映中の『チャングムの誓い』だけかも。いやーもうチャングム、毎回必ず、情的(家族、師弟、男女、敵味方など)・技術的(料理の競い合い、調理シーン、盛りつけ、薬膳の知識など)ヤマ場がてんこ盛りで、まるで実写版の美内すずえ、目が離せません。
 それはそうと、その日のテレビ欄チェックからは完全にもれていた「福岡発地域ドラマ『いつか逢う街』」。このタイトルで福岡発のNHKドラマ、主演が永島敏行なんていったらもう相当に泥くさそうで、「お、観なきゃ!」とはまず思うまい。しかも再放送だったから昼間の時間帯。ニュースを見ようとつけたらやっていた。
 筑豊炭田の街、飯塚市で畳屋をいとなむ職人が永島敏行。腕を発揮できる手仕事が減ったために店をたたんで広島の会社に就職することにし、妻と小学生の子どもも一応は納得している。自分の手がけた芝居小屋にも挨拶に行くが、そこで炭坑夫の格好をした幽霊に出合う。幽霊は実は、自分が幼いころ亡くなった「お父ちゃん」だった。一緒に芝居を観に行く約束をしていたその日、落盤事故で命を落としたのだ……。
 てなストーリーで、けっこうベタなんですが、何がいいって、父親役のイッセー尾形がすばらしい。どうやったら出てきて4、5分もしないうちに、剛毅でオチャメで身勝手で、そのくせシャイで家族思いだっていう性格がくっきりわかるのか。かといって類型的なわけではなくて、痩せっぽちで薄汚い(炭坑で死んだ日のままの姿だから、バッチイ)のに本当に魅力的。これまで、“ナマモノの人”だと思ってテレビではあまり注目していなかったから、これほどの芸人さんだとは知らなかった。
 このワガママお父ちゃんが、「あの日観はぐれた『国定忠治』をどうしても観たい」「そうせんと成仏できんばい」「なんで演ってもらえんとか」とだだをこね、しまいには息子も音をあげて、親友の大衆演劇一座の座長に頼み込む。公演当日、半分の入りだった芝居小屋は、お父ちゃんの仲間の炭坑夫たちで二階まで満席、怒涛の拍手。街の人々には見えないが、役者たちにはその熱気と感動の気配がはっきりと伝わり、渾身の演技を見せる……。
 クライマックスでは、はからずも涙が落ちるほど感動してしまった。お父ちゃんと息子が、家族や仕事、街について語り合うシーンにも、わざとらしさがない。永島敏行も、妻役の藤吉久美子も、座長役の玄海竜二も、とてもいい感じだ。途中からだったのが惜しい、最初からもう一度観たいドラマだった。
 本来、そういったカタルシスの要素も大きかったはずの演劇なのに、近年では出演者に「あ~可愛いのにヘタくそ。がんばってくれー」と気をつかいながら観ていたのに気がついた。安心して身をゆだねられるドラマの、何とたのもしいことよ。ないならなくてもいいけど、あることで心豊かになる、いわゆる文化とか教養とか、そういうもの。サウイフモノニワタシハナリタイ、じゃなくて、そういうものを見つけたり、作ったり、育てたり、もっと大事にしなくちゃあ、と確認した次第。

庄司みゆき