樹林杯血戦録[Hitoshi Oba]
(前回のあらすじ:去る三月二十五日の土曜日、全世界十億人の囲碁愛好家が注視する中、第三十八回樹林杯争奪囲碁選手権戦が開催された。全国百五十三万二千五百八十三人のアウレリウス・ファンの期待を一身に背負い、オーバは会場に向かった。右肩が故障、言ってみれば晩年の星飛雄馬みたいな状態ではあるのだが、大義の前ではそんなことなど構ってはおられぬのである。十二時過ぎ、ついに試合開始! 会場の緊迫感も最高潮に達した中、オーバはおもむろに碁石をつまみ上げ……血湧き肉踊る次号を待て!!)
しかしねえ…、見当外れと申すべきか「これでもお前はホントに出版関係の仕事で飯を食ってるのか!?」と問い詰められれば一寸お返事の差し上げように困ると言うか、そんな駄文を毎回草している身としても、今回のタイトルはいくらなんでも安直過ぎやしないか、と一応は首を捻ってみるのである。
けれども再三申し上げているようにオーバの本業は碁打ちであるのだからして、文章なんかいくら下手糞だって全然構わないのであった。ましてやタイトルなんざあ、せいぜいが広告屋風情にでも考えさせておけば宜しいのである。「〜屋風情」という言い方だって好ましくない表現であるらしいのだけれども、そんな事いくら知っていたって碁は強くならないのである。
樹林杯争奪囲碁選手権戦においては、各選手が四局打つ。その成績は国際的大会の常として「スイス方式」という高等数学の深奥を窮めた南蛮渡来の秘術(オーバは何度説明されても理解できない)によって決せられる。まあ、四戦全勝しないと優勝、入賞などは難しいもののようなのであった。
オーバの第一局のお相手はYさんという初対面の方。ザル碁とは申せ、初めての方とお願いする場合には相当に緊張をばするのである。で、慎重を期し、というかオッカナビックリで打ち進めたのだけれども。Yさんは豪腕、局面はいつの間にかオーバの最も苦手とする大石同士の攻め合いに……。幸い「目あり目なし」という奴であったらしく、なんとか辛勝。この辺、囲碁をご存じない方には分かりにくいでしょうけど、適当に飛ばしてお読みください。
まあまあの滑り出しかと思ったのだが、第二局のお相手は久しぶりに出場された強豪TRさん。しかも何故か手合いは互先! ダミだこりゃ、仕方ない、まあ百手くらいまでに潰れなければ上出来と申すべく、粛々と局を進める。ちなみにオーバが粛々と打つというのは、おおむね一手ごとに「優しくしてくださいね」「勘弁して」「お願いだから弱い者いじめはやめて」等々の懇願を重ねるという方式である。これはあんまり上品な碁打ちとは言われにくい戦術らしいので、良い子の皆様方は真似しないほうが良いかも分からない。ところが…、このお願いを本当にTRさんが聞いてくださったらしく、なんと最終的に数目を残したのである! 多分TRさんには初勝利。舞い上がっちゃったオーバ、密かにおトイレから知り合いにメールしたりして。
これで負け越しという比較的避けたい事態は回避されたのだからして、オーバとしては充分上等なのだけれども、なにせ百八十九万六千百十七人のアウレリウス・ファン(連勝してファンが増えたのである。有難い事である)の期待を背負う身としては、なんとか後一回くらい勝てないかな〜、とも思ったのだが……。
第三局で当たったのが、過去最多優勝を誇る超強豪TNさんとはツイテナイにも程がある。しかもハンデはたったの二子。これはもうかなりの手合い違いなのであって、実際S塚の碁会所GYなら三子か四子の手合いのはずである。もう破れかぶれ、国敗れて山河あり、破鍋に綴じ蓋、死して屍拾う者無し、お主も悪よのう越後屋、いえいえ、お奉行様ほどではとても、これこれ、何を申して居るのじゃ、そちは、うおっほっほっ、ひっひっひ、とまあ、概略以上のような心境で盤に向かうしかないのであった。
大体が、敵が何を考えてるのかをヘボはヘボなりに推し量りつつ打つというのが囲碁というゲームなのだけれども、TNさんくらいの打ち手がお相手という場合にはもう、まるっきし見当がつかない。おまけに大会進行上の都合から、途中で「時計」が入る! これはですね、とっとと打たないと持ち時間が切れて負けちゃうよ、という苛酷な仕組みであって、何が何だかもう、クミちゃん全然わっかんなーい、という半泣き、いや四分の三泣きくらいにはしっかりとなっていたのであった(オーバは前記S塚GYで、もったいなくも大場久美子様のお名前から「クミちゃん」というあだ名を頂いていたことがあるのである)。
$♭!♪%#¥+*@&??★←▽……。
あ、あ、あのう、えーん。奇跡が起こっちゃったの! なんだか分からないけど、終わっちゃったらね、あのね、クミちゃん、ちょびっと勝っちゃったの!!
これは一大番狂わせなのであって、会場騒然、報道陣も「予定原稿差し替えだー!」「オーバのプロフィールを至急調査せよ」「インタビューとかのスペースある? いいよ、○○の糞つまらない四コマなんか飛ばせっ!!」等々と殺気立つ有様。既にして燃え尽きちゃった白い灰となっていたオーバも、これはご期待に応えてもう一局頑張らなくちゃ、と思いました。
もしかしたら勝ったほうが優勝という注目の最終局、お相手は樹林師範格、この人の名前を知らなかったら碁打ちとは申されぬ、というやはり超強者のITさんである。手合いはこれも何故か先というチビしさ。オーバ、ITさんには正直、五子くらい置かせて頂かないと楽しく碁を打ってる、という心持には到底なれぬのである。
実はオーバの囲碁における得意技、必殺の術というのは「ポカ」である。これでも有段者の端くれではあるはずなのだけれど、ほぼ毎局、二度か三度かは十級レベルのポカを打たずにはいられないのである。だもので、オーバの碁は見物衆には結構人気があるのだ。笑えますからね、なにしろ。
喜んで頂けるのは嬉しいのだけれども、この必殺の技には重大な問題が一つあって、つまり殺されるのが相手ではなくて、何故か技を発揮した自分が殺されちゃうのである。しつこいけど二百万のアウレリウス・ファンが声援してくださっているのだ。今大会ばかりは涙を飲んでこの技は封印しよう、と誓っていたんです。ホントです……。
〒#!♪%#¥℃дΠ……そうこうしているうちに早終盤、そもそもITさん相手にここまで持ったというのが奇跡再び! みたいなものなのだけれど、試みに目算してみると悪くない、かもしれない。オーバの目算というのがこれまた著しく信頼性に欠けるのではあるけれども、も、も、も、もしかしたら、ゆ、ゆ、優勝!? ボクちゃん明日から有名人? 悪いんだけどさぁ、ペラ1万以下のお仕事は受けられないの、うん。そ、オタクの編集長にもー一回相談してもらえるかなあ。あと、ノータックスやでえ、そこんとこヨロシク…みたいなぁ???
そもそもがITさんはほぼ樹林の従業員なのでもあるからして、お客様には花を持たせなければならぬ、という事情もこれあるのであって、うんにゃ、これは事情なんてものではなく、責務、債務、厳命下る、勅を賜る、失敗したら帰ってくるな、くらいのことはある、と考えてもよいと推測してもいい蓋然性が高い、ような気がする……。
ヴ〜むむむ、ぐぬぬー……、それが、この黄金の右腕が、ついにやりやがったのだ、グレイトでダイナマイト、ほわっつあーゆーでぅーいんぐ?的ポカを…。対TNさん戦で疲労困憊、手えの神経とドタマの神経、つながってないちゃうん、兄ちゃん、なんて言われても詮方なし、とゆー…。
でもってさあ、ITさんってば、きっちしこのミスを咎めやがんの。ど終盤に来てガッチリ十目は超える大損、従業員としてもう少し考えてもらいたい。猛省を促したい。それとこれを見物していらした準従業員のOGさん、あなたもそんなに笑っちゃいけないでしょう?
ああ、オーバついに散る、もうITさんじゃなくってITのデブ野郎、あんちゅうこったらするんだ、ごらあ、厨房氏ね、2チャンか俺は? いいよいいよ、ビールくでえ、ママ(富樫洋子様とおっしゃる)どーしてくれるのよ〜、オタク、従業員教育が悪いんじゃない? なんつって、カウンターに突っ伏していたんだけど。
ところが! そこまでの経緯で優勝候補筆頭と目されていたSEさんがまさかの一敗という大波乱、でもってその摩訶不思議なスイス方式のおかげらしく、優勝が全勝のITの野郎様、準優勝が三勝一敗の拙者、という結果となったのだから、勝負という物は本当に下駄を履くまで分からないのであるらしい。
え〜、そーゆー次第なので、御用のない向きは地下鉄虎ノ門駅下車、西新橋交差点近くの樹林という囲碁将棋スナックを訪ねて頂くと、オーバの写真がご覧になれます(やっぱ残念ではあるんだ。もし優勝してたら「御真影が拝めます」と書けたのだ!)。
このお店、通常営業は月曜から金曜、お昼はランチ(リーズナブルなお値段で、とっても美味しいです)、でもって昼下がりから十時近くまで、好きな時に囲碁、将棋が楽しめるという誠に結構なトコロです。電話番号は「03-3580-1746」です。オーバも時々遊びに行ってます。お会いできたら喜んでお相手させていただきます。だけどホントに優しくしてね……。
最後に業務連絡。オーバ、実は本業の他に将棋という副業がある。なもので、本月十五日の樹林杯争奪将棋選手権戦にも出場せねばならぬ。奇数月のおおむね最終土曜が囲碁大会、偶数月の真ん中くらいの土曜が将棋大会なのである。忙しいのよ、クミちゃん。そいで、両大会とも常に新しく参加して下さる方は熱烈歓迎、もしも「オーバのブログを見て来ました」なんて方がいらっしゃったら、それはもう、笑われるほど、じゃない、貴方は笑うほどの大歓迎を受けられるはずである、多分。お問い合わせは上記電話番号まで。
それと良い子の皆様、そんなことなので引き続きオーバ先生に是非励ましのお手紙を出しましょう。ホントによろしくねっ! じゃあまた。はあと。
大場仁史


0 Comments:
Enregistrer un commentaire
<< Home