mardi, décembre 20, 2005

歳末のバイオハザード(!?)[Hitoshi Oba]

(前回のあらすじ)オーバは十年近く前、早稲田にある予防衛生研究所(略称・予研)に取材に行った。取材をさせていただくK先生はとっても怖そうである。大体、予防衛生研究所そのものが、考えてみると怖いところのような気がする。小心者のオーバは、知っているかぎりのお祈りの文句をつぶやきながら早稲田へと向かったのであった。

トートツですが、ゾンビってありますよね。人はいかにしてゾンビとなってしまうのか、皆様ご存じでしょうか。私がテレビ映画を見たところでは、あれは「悪霊の細菌(!!)」に感染しちゃった人がなるのである。「悪霊の細菌」って、あなた、ドストエフスキーもビックリですなあ、などとテレビを見ていたときには一人で笑ってしまったのだが……。
冬の日の夕方、予研のインインメツメツ感が漂う薄暗い廊下(記憶では、もうすっかりそういうイメージになってしまっている。もし関係者の方がご覧になっていたら申し訳ありません)をトボトボと歩いていると、次から次へと怖そうな名前の部屋が並んでいる。「結核菌研究室」「エイズ研究室」「外来感染菌研究室」「悪霊菌研究室」(だから、そんなものないんだってば)等々。
そういえば予研まで来る道のあちこちに「P4施設反対!」なんて看板がいっぱい立ってたっけ。「P4施設」というのは、物理的封じ込めというもので、要するにヤバイ菌が研究室から出てきちゃうのを、気圧の差などで防ごうというもの。厳重さには4段階あって、「P4」というのはその最強レベル。うわあ、あそこでは一体全体どんな恐ろしい研究が行われているのじゃあ!? 一応、科学分野を担当していたくせに頭の中は小学生レベルのオーバは、すでに着く前からビクビクなのであった。
で、建物に入ってみれば、先に申し上げたような怖そうな部屋が延々と続く。目指すK先生のお部屋はなかなか見つからない。そのうち遠くでお寺の鐘がごぉ~んと鳴って……。
お寺の鐘はいくらなんでもウソなのであるが、かわりに突然、廊下のあちらこちらから、ガラガラッ、ゴォーという音が聞こえてきた。音だけでも怖いのに、見ると白衣にマスク、ゴーグルという恰好の人たちが突進してくるのである。試験管なんかがいっぱい乗ったワゴンを押しながら。顔つきも、どう見ても尋常ではない! とっさに思いました。
「出た~! バイオハザードぢゃあ!!」(←「ふるやのもり」かい!)もう、悪霊の細菌なんて笑っている場合では全然ないのであった。
突進してくる白衣のワゴン軍団からなんとか逃げようとするのだが、なにしろあちこちからワゴン軍団は湧いて出る。心境としてはもう完全に、楳図かずお先生のマンガの登場人物である。ギザギザにふちどりされた「ギヤアアアー」という悲鳴を発しながら走り回っているうちに、やっとK先生の部屋が……。
飛び込んだオーバは顔面蒼白、唇をわななかせながら、「せ、せ、先生、ろ、ろ、ろ、廊下で起こっているのは、あれはいったい……?」
するとおもむろに振り向いたK先生、「知っていますよ、こんな風じゃなかったですか」……見るとK先生はすっかりゾンビになっている!
なんてことももちろんなかったのであるが、こちらのあまりのあわてように、初めはK先生も怪訝そうな顔つきだった。だが、オーバのしどろもどろの説明を聞いているうちに、豪快に笑われ始めたのである。
「ああ、あれね。大掃除だよ、大掃除。君はいったいなんだと思ったの」
はぁ? あれは歳末の恒例行事だったわけ? そういえば物理的封じ込め設備があるようなところで事故があったとしても、試験管持って走り回ったりするわけないか……約30秒の沈黙の後、ようやく真相が理解できたのだが、まさか「ゾンビになっちゃうと思ってました」ともいえず、そのときどんなお返事を差し上げたかも記憶にないのである。で、その後の取材の有様は前回書いた通りでありまして。
今では笑い話ですむが、あのときはホンットーに怖かったのである。生涯の「背筋が凍る思い」でも、ベスト5には確実に入るような気がする。実は今でも1年に1回くらい、そのときの夢を見ちゃうのである。

長々と書いてまいりましたが、要するに今回のワタクシのメッセージは「皆様、大掃除はおすみでしょうか」ということです(すみません、すみません。もうこんなことは二度としません。誓います。誓えそうな気がします。多分誓えるでしょう。誓えるんじゃないかな)。
我が家はといえば、これもいつか書いたように、オーバには片付けるという能力が、多分先天的に欠如している。机の上を片付けると、かわりに周りが散らかるというあんばいで、もう掃除ということについてはほとんどさじを投げている。ましてや大掃除なんて、思いもよらないことなのでありました。

寒い日が続きますが、皆様、元気に歳末を過ごされ、良いお年をお迎えになれますように。失礼いたしました。

大場仁史