mercredi, janvier 25, 2006

ローマの休日[Izumi Shoji]

 浪費家、片付けられない女、そしてダメ母。三重苦の私であるが、ほめられるところが一つあるとしたら、裏表がないことかも。自分で言うのもなんだが素直な性格だ。何でもすぐに顔に出る。隠しごとはできないタチだから、私にかぎって「影で何言ってるか」って心配はご無用。安心しておつきあいくだされ。

 さて、今ではこんな“わかりやすいキャラである自分”を受け入れてはいるが....。ないものねだりをしがちなお年頃、10代や20代の初めはミステリアスな女に憧れた。「愛の嵐」は暗すぎて、いや重すぎて、若かった私はついていけなかったが(あ、私はナチスの話とすぐわかったよ、お姉ちゃん!)、シャーロット様の謎めいたまなざしにはノックアウトされた。「大人になったらあんな女になるんだ!」と決め、流し目の練習までしたのに....。カチンとくると目がつりあがり、嬉しいと目尻が下がる。秘密といえば冷凍庫に油揚げを大量にストックしてること。そして、謎といえば「マルマンストアで何を買ってるか」程度の女になってしまった。ああッ、自分が情けない。

 さて、マイアイドルって誰かなぁ、と考えても、この人というのが思いつかない。カサヴェデスの奥さん、ジーナ・ローランズのカッコよさにもしびれるし、「勝手にしやがれ」のジーン・セバーグもやっぱり瑞々しくていい。女じゃないが、「ベニスに死す」のビヨルン・アンドレセンの赤い唇にもマイッタなあ。あんな唇になりたくて、一時唇を噛むのがクセになったほどだ。
 あと、個人的にすごく好きなわけじゃないけど、女の子たちの永遠のアイドルというと、オードリー・ヘップバーンだろう。どの作品でも可憐で清潔。小鳥のようだ。私が男なら、清潔すぎて手が出せない。畏れ多すぎる。
 そのオードリーの代表作「ローマの休日」の舞台、ローマには数年前に行ってきた。例によって家族と一緒。観光客ですからね、スペイン広場やトレヴィの泉も当然行った。いや、トレヴィの泉なんて数え切れないほど行ってしまった。狭い街だからさまよってる間に、なぜかたどりついてしまうのだ。
 その夜もローマの街をそぞろ歩いていたら、突然の人混みに行き当たった。見覚えのある噴水、その前で記念撮影を撮りまくる観光客たち。おなじみのトレヴィの泉だ。最初は「また来られますように」と肩越しにコインを投げた私だが。4、5回目ともなると「チェッ、またここに来ちゃったか」と舌打ち。「もう来なくていいから、コイン投げないで」と娘に止められたっけ。
 ところが.....。その夜のトレヴィには、思わぬ見所があったのだった。
 泉の奥、宮殿の壁にはネプチューンやトリトンの像が並ぶ。夜ともなると泉ともどもライトアップされ、闇に美しく浮かび上がる。あきてはいたが観光客ですから、「夜のトレヴィもまたいいじゃん」とか言いながら、泉のまわりをまわり、写真を撮った。そうしてるうち、とんでもない情景が目に飛び込んできたのだ。
 泉の右手、宮殿の壁が途切れるあたりに大きな岩場がある。そこにもライトがあたり、ちょっとした舞台のよう。そこに......。季節は真冬、寒空なのになぜか肩だしの黒いロングドレスの女性と、タキシード姿の男性が立っていた。ダウンコートやジーンズ姿の観光客だらけのスポットなのに、そこだけ舞踏会状態だ。
 最初はショー、またはメロドラマの撮影と思った。だってその二人、舞台ばりの大げさなやり方でうっとり手をとり見つめ合い、時に口づけをかわし、離れては切なげに胸をかきむしり.....、と、延々ラブシーンを繰り広げていたのだから! けれど見回してもテレビカメラはない。クスクス笑う人は数人いても、ギャラリーに取り囲まれてるわけでもない。ショーでも撮影でもなさそうだ。「だったらあの人たち、何ッ!?」、娘に聞かれて言葉に詰まった。「さあ? たぶん恋人同士?」。
 おもしろすぎて目が離せなくなった我々は、20分くらい見ていたろうか。その間二人はうっとり酔いしれ続けていた。私たちが立ち去ったあと、彼らがどうなったか。どう落とし前をつけて退場したのか、万一目撃した人がいたら教えてください。
 ちなみに女性はオードリーの可憐さとはほど遠く。しいて言うならキャサリン・ゼダ・ジョーンズか叶姉妹!? 30メートル離れていても濃厚な香水が漂ってきそうな人だった。男性のキャラは....、思い出せない。あの時写真を撮っておけば、みなさんにもお見せできたのに。残念です。

庄司いずみ