samedi, janvier 14, 2006

アラブ商人[Izumi Shoji]

 パッと見、かよわげだが、私は冒険家だ(かよわく見えない? いいんです。自分ではそう思ってるんだから!)。旅行大好き。異国情緒がある国ほどワクワクする。メキシコシティの喧噪もナポリ裏町の無法地帯もへっちゃら。スリが多いと評判のバルセロナも夜遅くほっつき歩き、おじさん達のゴキゲンな演奏で夫と踊ってきた。
 だが。この冬休みに訪れたマラケシュでは最初の3日は胃が痛んだ。どこ歩いても、目つきの悪いおじさんやお兄さんがたむろしてる。目が合うと、いや目をそらしていても「コンニチワ! グッドプライス! ドウゾ!」だ。
 ここはどこ? って顔を一瞬でもしたらガイド志望の少年が抜け目なく寄ってくる。買い物するにも定価はない。『地球の歩き方』には言い値は現地価格の10倍くらいだから、必ず「まさかッ?」って顔をしろと書いてあるし。交渉がめんどくさいから逃げようとしても、「マダーム、1分待って! いくらだったら買うんかい!」。メキシコでは法外な値段を要求するタクシー運転手に断固抗議し、こちらの言い値を押し通した私だが。アラブ商人はヤワじゃない。
 交通量の多い大通りに信号はなく、横断する歩行者も運転手もどちらも譲らず。細い路地でも平気でバイクをすっとばす。道幅より広い馬車がむりくそ通る。二人乗りバイクだらけのナポリの裏通りより、もっと危ない。この国に秩序はないのか!? ロバや馬が荷物をひいて歩き、街中馬糞だらけ。パリの犬の糞攻撃のほうがまだマシだ。
 食べ物にもやられた。「ベジタリアンなんですけど」と伝えると、どこの店でも「野菜のクスクスは?」と勧められる。クスクスは好物。パリや東京で食べるクスクスは。本場のほうがおいしいはずだ。ところがそれもモロッコ人の手にかかると.....。スパイスのせい? 薄味なのにクセが強く、3日連続クスクスを食べたら口中口内炎だらけ。もうクスクスは見たくない。娘はパスタに懲りたらしい。一度私も食べたが、あり得ないくらいアルデンテではないスパゲッティ。思い出すだけで気分が悪い。
 しかし、「モロッコへ行きたい! アラビアンナイトの世界だってよ〜」と主張したのはこの私。意地でも「おもしろいじゃん。いい街じゃんッ」と言い続けた。だが内心「早くおパリに戻りたい....」と思っていたのだった。
 でも、順応するもんですね。4日目くらいからワクワクしてきた。無秩序のきわみの喧噪も、迷路のような街並みも、瓦礫の山に露店が並ぶ光景も、慣れたらまさにアラビアンナイトの世界。モスクをはじめ建造物は美しいし、そのモスクから一日何度もガーガーと流れる”お祈りの時間の呼びかけ”はエキゾチック気分をかきたてる。女性達の手を彩るヘナ、蛇つかいのおじさんたち。うーん、不思議な世界。布で顔を隠しつつ、唯一露出された目にもんのすごいアイメイクをほどこすお姉さん。そんなアラビア美女が二人乗りバイクでかっとばすのも、イカす光景だ。
 また、どこの街でも心を鬼にして物乞いや物売りは無視してきたが.....。めぐまれたお金で物売りの少年からドーナツを買い、孫に与える物乞いのおばあさんを見て方針を変えた。4、5歳の物売りの少女からお菓子を買い、物乞いの人にコインを手渡した。それが彼らのためになるかはわからない。でも、「マダーム、買ってください」と哀れっぽい顔の子が、お菓子を買ってあげるとニコッと笑うのだ。1ディラハム(14円くらい)で女の子は少しうるおい、お菓子を買ってもらった我が娘も喜び、女の子の笑顔で私も気分が良くなるんだからいいじゃないか! それに幼い女の子がお金を稼ぐなんてすごいことだ。娘よ、見習え!
 豆スタンドで買う、ひよこ豆もウマイ。ポリポリかじりながらほっつき歩き、疲れたらミントティ。蛇つかいの笛の音で踊り(ホドホドにしないと、蛇を首に巻かれそうになるから要注意!)、アラブ式商談もショーと思って楽しみ、多少納得できなくてもまあ許す。頼んでない玉ねぎまで袋に詰め込もうとする八百屋のおじいさんも、お茶目と思えば腹も立たない。それにどんだけ買っても、結局は袋を持ち上げ、「10ディラハム(140円くらい)」。正規の値段は知らないが、マルマンストアの20分の1だ。
 ああ、書いていたらまたマラケシュへ行きたくなってきた。これまでは奥ゆかしく生きてきた私だが、これからは彼らのようにしたたかに生きよう。「庄司さん、いつもはおいくらのギャラですか」と聞かれたら、「ページ30万円がふつう。10pなら300万!」。これを日本でやったら...。値切られる前にハッと息を飲まれて、仕事、なくなるか...。
 あ、最後になりましたが今年もよろしくお願いします! ページ30万なんて大嘘ですから! お気軽にお声をかけてくださいませね。 


  ↑古い建築は内部もとても美しい。


  ↑マラケシュの旧市街はこんな細い路地だらけ。これは、とってもすいているほうです。

庄司いずみ