lundi, mai 08, 2006

想像力の素晴らしさよ[Minoru Ota]

 仕事の必要から何冊か科学本を読んだ後、稲垣足穂の『僕のユリーカ』を読み始めたら、これもまた科学本のごとき内容。まだ、読み終えてはいないが、稲垣足穂の天文学、物理学の知識の並々ならぬことには実に驚かされる。しかも、相対性理論の理解など的確だし、僕にはチンプンカンプンの数学的ことどもについても理解しているのはほんとうにすごい。
“リーマン的孤独感”だとか、広重の絵の遠景の描き方に“局部的なロバチェフスキー空間を構成するかのようだ”と書いたり、もうたまらない修辞であいかわらずいっぱいだ。
 先日、ふと思い立って新潮文庫の谷崎潤一郎『少年・秘密』を読みかえして陶然(うっとり)として、かつ愕然(ショック!!)としたばかりで、足穂といい、谷崎といい、やっぱり天才はすごいなあ。日本語という言語の持つ可能性の刃を、ヨーロッパの言葉という砥石で研ぐような、そんなすごみが二人にはある。文体はまったく違うけれど。
 この『少年・秘密』はパリのブックオフで買ったもの(またパリか、と言うなかれ。前世パリジャンだから、しかたないのだ)。高校のころ、『秘密』を読んで感動したことを思い出し、機上でまた読んでみようと求めたのだが、結局、日本に戻ってから読むことになった、パリの匂い付き新潮文庫であった。
 記憶の中の『秘密』は、少年と淑女の神秘的な恋愛譚であったが、読んだら違った。どうも、記憶がごちゃまぜになっていたみたいで、少年と思っていた主人公はクールで軟派な野郎だった。
 この文庫には『母を恋いうる記』も収められてあり、これは読んだ記憶が無かった。実に素晴らしい作品だった。僕もこんな短編を書いてみたい……。
 というわけで、この短編集に大感激した僕は谷崎の文庫を全部買ってしまった。高校生のときに買ったときと文庫の表紙がまったく変わっていないのも、とても嬉しい。
 とはいえ、谷崎の前に足穂の読みかけを読んでしまわないといけないので、楽しみはもうちょっと先に。ま、どっちも楽しみだが。
 で、科学本を読んだ理由だが、僕は火星旅行記を書かないといけないのだ。まだ、主人公が月に行って訓練するところまでしか書いていないが、主人公が宇宙から地球を見るシーンでは想像力をいっぱいにはばたかせて地球の巨大さ、不思議さを書き綴った。
 その後、書店で宇宙飛行士の野口さんの本を見つけ、立ち読みしたところ、野口さんが船外活動の際に地球を見たときの感動的な体験が書かれてあった。で、ここからが「俺の自慢」だ。
 つまり、その野口さんの体験の中身というのが、僕の書いたものとよく似ていたのだ!!
 地球周回軌道にある宇宙船の外に出たとき、どんなふうに地球が見えるだろう……。それを目をつぶってリアルにリアルに想像して、そして言葉に書きつづった。それが野口さんの実際の体験とよく似ていた。その感覚的出来事までが。
 谷崎の『母を恋いうる記』は一種のファンタジーなのだけれど、圧倒的な現実感がある。有り得ないことなのにリアルである。この矛盾。そしてその矛盾が成り立つ想像力の中の世界。「白い赤」「明るい闇」などといっても僕らはそれをイメージできる。その不思議。
 はたまた、行ったこともない、そして行けるはずもない宇宙空間での体験を言葉に置きかえることのできる夢見る力の素晴らしさ。
 僕らの商売は、パソコンでもなく、鉛筆でもなく、この想像力が道具だ。たとえ、若者雑誌でナンパ術の原稿を書くときでも、読者に対する想像力をいっぱいにはばたかせなくては面白いものは書けない。これは20代のころに身をもって実感したことだ。そうやって鍛えられた経験は一種の宝物かもしれない。
 でも、このブログだけは読者への想像力がはばたかないんだよね。どんな人が読んでるのか、見当もつかない。義父が読んでいるらしいということはこの間知ったばかりですが……。読者である義父に向けて想像力をはばたかすというのもなあ……。あまりに生々しいというか……。うーむ……。

太田穣

2 Comments:

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2:54 AM, août 13, 2006  
Anonymous Anonyme said...

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6:57 AM, août 18, 2006  

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