Never Let Me Go〜わたしを離さないで[Minoru Ota]
『遠い山なみの光』を読んでとても気になって、『わたしを離さないで』『日の名残り』『わたしたちが孤児だったころ』とカズオ・イシグロを読んできた。同い年なんだけど、すごいなあ。
最新作の『わたしを離さないで』はすごい評判のようだ。原題が『Never let me go』で、物語中、語り手のキャシーが偏愛する曲の名として登場する。
小説中では、Judy Bridgewaterという歌手のSongs After Darkというアルバムの中の一曲ということだったのだが、急にそんな曲はあるんだろうか、あるんだったら聴いてみたいと思ったら、居ても立ってもいられず、ますはJudy Bridgewaterでググってみた。と、世界中に同じことを考えている人は無限にいるもので、世界中の言語で書かれたブログや書評がズルズルと地引き網にかかってきた。で、結論はグローバルワイドで同じようである。
すなわち、Judy Bridgewaterなる歌手はフィクションであり、おそらく『Never let me go』もそうだろう。
実は同名の『Never let me go』というジャズのスタンダードは存在する。iTuneなどで検索すると、マイルスからダイナ・ワシントンまで、相当の数が見つかる。
しかし、イシグロの『わたしを離さないで』に出てくる『Never let me go』は、「オー、ベイビー、ベイビー、わたしを離さないで」というフレーズが何度もリフレインする歌詞であり、語り手にとってはこの「ベイビー、ベイビー」の言葉が重要な意味を持つ。
でも、スタンダード・ナンバーの『Never let me go』には「ベイビー、ベイビー」はないし、どう聞いても「わたしを捨てないで」というラブソングである。もちろん、小説中の『Never let me go』もラブソングなのだが、聴きようによっては母子の愛を歌ったようにも覚えることが大事なのだった。とすれば、このスタンダード・ナンバーがイシグロがきっと心でつぶやいたはずの(彼は若いころはミュージシャン志望の青年だった)『Never let me go』とは違うのではと思うのだ。
それでは、イシグロの『Never let me go』はどんな曲なのだろう。想像をたくましくして、似た曲を探してみた。同い年だから、好みは似ているはずだ。
ヒントは「スローで、ミッドナイトで、アメリカン」で、語り手がこの歌を聴きながら一人でスローダンスを踊る。レコーディングは1956年となっている。
実はスタンダードの『Never let me go』は、スローでミッドナイトでアメリカンに歌われることが多い。だから、ムードとしてはそれなのかもしれない。でも、スローでミッドナイトでアメリカンといったら、それこそそういうテイストを醸し出す歌は無限にあることも確かだ。
実はiTunesで検索したときに、『Never let me go』でもスタンダード・ナンバーではない異曲があるのに注目していた。購入して聴いてみたら、歌っているのが男性(おそらく黒人か)ではあるものの、ムードとしてはとても近いのだ。というか、完全に古いスタイルの8分の6拍子のスローバラードなのだ。録音年代はわからなかったが、おそらく1950年代ではないだろうか。歌うのはBig Bud Harper。僕はブルースには疎いのだが、それなりのお方とはお見受けする(といって、歌唱からだけだが)。ご存知の方がいたら、教えてほしい。
我が拙い英語力で聞き取った歌詞を以下に記す。
このNeverの繰り返しをBabyにして、女性が歌えば、もしかしてイシグロの小説の『Never let me go』に似るのではないかと、そう夢想して、さっきから何度も繰り返して聞いているのである。
Darling Hold me, Hold me, Hold me
Never Never Never Let me go
Darling Kiss me, Kiss me, Kiss me
Never Never Never Let me go
Lock my heart and throw way the key
tell my love with the ????
warm my heart with your warm your breast
and tell me no one can never take my place
Darling kiss me, kiss me, kiss me
and Never Never Never Never Never Never Let you go
It was you who made me love you
and Never Never Never Never Never Never Let you go

Big Bud Harperの『Never Let Me Go』が入っているアルバム『Back in time / San Antonio Soul』
太田穣


1 Comments:
私も太田の影響でカズオ・イシグロがマイブーム♪
頼むから「私を離さないで」のストーリーを私に解説しないでくださいね、何人たりも。
まだ読破していないので。
izumi
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