samedi, mars 04, 2006

デトックスのすすめ・イルカ編 [Miyuki Shoji]

 さて、妹も書いているように、ウチの者は名鍼灸師である。っていうか、鍼は名人だが、実技がいいのであって言葉での説明は不得手。さらに、鍼以外に上手なことはと見渡しても生活全般を通じてほぼ全滅という、典型的な職人系である。趣味は鍼、好きなものは鍼、仕事も鍼というストレスフリーな動作環境なうえ、半分寝ているときもグデングデンに酔っているときも、鍼を打ちこむ指先だけはブレないのには驚かされる(患者さんは怯えるけど……無理もないと思うよ、やめようね治療中の飲酒は)。見かけも鍼師で仕掛人、藤枝梅安の劇画バージョンにちょっとだけ似ているから笑える。あんなにカッコよくないけど。
 ともあれ、からだのちょっとしたズレやコリの塊が全身に影響したり、精神的落ち込みの原因になることはままある。特に、少しずつ降り積もっていく疲れはなかなか気づきにくいもの。それに男性は、他人か医者にハッキリ指摘されるまで、体調のシグナルを無視し続ける人が多いそうだ。オーバさんオータさん、どうかくれぐれもご自愛ください。

 話変わってつい先日、千葉県の九十九里浜に、イルカが群れをなして次々と打ち上げられるという事件があった。約70頭というから、ふだん100頭程度で移動するというほぼ1グループなのかもしれない。地元のサーファーたちが救助にあたったが、50数頭は死んでしまったらしい。
 たまにあるこういう話、何が原因だと思いますか? アンチエイジングの本を作っている最中のせいもあり、私は即座に「水銀が蓄積して、感覚がおかしくなったんじゃないか」と思った。
 身近にある金属で雨水にも海水に含まれる水銀は、水中のバクテリアによって有害なメチル水銀へと変化して海の食物連鎖に組みこまれ、連鎖のトップに君臨する大型魚ほど蓄積量が多くなっている。具体的には、マグロやメカジキ、イルカ、鯨など。
 神経毒性が顕著で、頭痛、難聴、不眠、食欲不振、鬱症状、アトピーやアレルギー疾患を引き起こすほか、代謝を低下させることで肥満の原因にもなる水銀。自閉症やADHD(注意欠陥多動性障害)の子どもを調べても必ずといっていいほど溜まっていることがわかっていて、密接な関与が疑われているオソロシイ物質なのだ。
 そんなイルカが神経をやられて方向感覚を失い、海岸めざして爆泳したのかもしれない、と思ったわけだ。
 今回、国立科学博物館動物研究部が遺体を解剖して、DNAや蓄積したダイオキシン、水銀等も調べると言っているが、その情報が私たちに届くかどうか。何しろ、水銀毒の高い魚を知りたいと思って政府機関のHPを調べると結構笑える状況なのだ。
 マグロ、タイ、アジ、タコ、イカなどごく普通に食べている魚がたくさんリストアップされているのはいいとして、実際にはかなりの魚について「未検出」だったり、その根拠が「検体数1」だったりして、「はぁ?」と呆れること間違いなし。学術論文なら絶対に捏造と言われるレベルである。
 日本は漁業大国だから利害関係があるのはわかるけど、そのせいで情報をうやむやにしているとしか思えない。あまりに世界で危険性が有名になってきたから一応は「妊婦はマグロは週1~2回まで」などの発表だけはしたけれど、これは、いくらキケンでも日本人がマグロを食べるのをやめるわけがないから公表しただけであって、実際には国民の健康なんかどうでもいいのね、ってこと。魚食いの日本人は、私もあなたもすでに水銀蓄積量はレッドゾーンに突入している。あと10年20年、水銀魚を食べつづけるとどうなるのか、イルカの一件を見ても想像がつく。だって、海の食物連鎖のトップにいるマグロやイルカのさらに上が人間ですよ。自慢じゃないけど、毒の蓄積量じゃあ地球一、ということではないか。
 水銀があまり溜まっていない安全な魚はまずサーモン。カレイ、ヒラメ、スケトウダラなどの数値も低い。10年後も灰色の脳細胞と健康を保って人生をエンジョイするために、大型魚は避けてサーモンを食べ、せめて半身浴でデトックスして、ウンチもどんどん出しましょう。このまえ築地でつい注文したランチ特上セットの中トロは、逡巡のあげく口に入れてしまい、とろける甘さに酔ったけれど、うん、旨いものはたまには食べよう。毒だけ出してしまえばいいのです。イルカさんたちも、何と言っていいかわからないけど、とにかくあきらめずにがんばってほしい。

庄司みゆき